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スペイン語と日本語の飛び交う劇団セロ・ウアチパ
林巌雄(日本キリスト教団蒲田教会・牧師)

  「セロ・ウアチパ」(「ウアチパの丘」の意)は、ラティーノスと日本人が出会い、自分たちの経験に基づいてともに劇を創作し、それを通して、愛や平和、生きる意味といった大事なメッセージを伝えようとする劇団です。また、劇の終わりには観客を交えて話し合いの場を持つようにしています。観客も劇の参加者であると考えるのです。
 劇団のメンバーには、ペルー人、アルゼンチン人、メキシコ人、日本人などがいます。ラティーノスの日本語レベル、日本人のスペイン語レベルはさまざまですが、おたがいにわかりあえるように配慮しあいながら、また、演劇を通して何かを表現するという共通の目的に支えられて、ともに歩んできました。観客も日本語だけわかる人、スペイン語だけわかる人、両方わかる人などいろいろですが、どちらか一方の言葉がわかれば理解できるような劇を心掛けています。
 わたしがこの劇団に加わったのは3年ほど前のことです。モニカ・ミヤシロとダンテ・ナカホドは10年前から日本キリスト教団蒲田教会のメンバーでした。ある日、彼らから、演劇の練習に教会を使わせて欲しいと頼まれました。わたしはすぐにOKと答えました。
 彼らの練習を見ているうちに、自分も劇に参加してみようかなと少しずつ思うようになりました。未体験の世界に飛び込むのも悪くないと思い始めました。しかし、もっと大きな理由は、牧師として聖書や教会のことについては、わたしはどうしても「教える立場」「上の立場」になってしまいますが、演劇はまったくの素人なので、皆と対等の立場、あるいは、皆から教えてもらう立場になれると思ったことです。
 以前から牧師が上で信徒が下という関係を克服したいと願ってきたのですが、その難しさに悩んでいました。そこで、演劇は何もできない者として皆の仲間に入れてもらうことによって、この問題が少しでも解決できるのではないか、ただ移住労働者のために練習場所を貸すだけでなく、自分も皆の一員となって、一緒に汗を流してみたいと思ったのです。
 さて、ダンテとモニカの演劇仲間には、コータ・スズキとセサル・イケダがいました。彼らは演劇を専門に学んだことがあり、また、劇団を率いた経験を数多く持っていました。彼らの演劇つくりの方法は非常に興味深いものです。最初に脚本があるわけではありません。この二人に導かれながらも、皆で話し合って、ストーリーや台詞、演技を考えていくのです。その際に材料になるのは、自分たちの実際の経験、そして、時には、聖書の言葉です。
 今年5月に世田谷の路上演劇祭に参加した劇には、アキラ・タマナハの祖父と父、そしてアキラの少年時代の経験に基づいて、沖縄からペルーへの移住、ペルーでの劣悪な労働条件、第2次大戦中の日系人迫害、家族の死や離散、幼少年の労働などの問題を盛り込みました。日系ペルー人の経験を、日本社会において日本人中心ではなく、日系ペルー人、ラティーノスと日本人が共同で脚本を作り、公演したことには大きな意味があったと思います。
 また、今年の復活祭(4月)には「悪魔の悪戯 in Kamata」という劇を教会で演じました。一日のきつい仕事を終えればあとは缶ビールを片手にテレビを見て寝るだけ、休日はパチンコをするだけの日系青年が、ある日教会からの招待状を郵便受けに見つけます。最初は教会などつまらないと思いますが、もしかしたら女の子と知り合えるかも知れないと思い直し行ってみることにします。しかし、蒲田駅周辺の諸問題(放置自転車、歩行喫煙、風俗店など)に阻まれたり、思いがけず人助けに巻き込まれたりして、なかなかたどり着けません。道に倒れていたお年寄りを助け起こし、時計を見ると、もう礼拝の時間は過ぎようとしていました。ところが、「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイ25:40)というキリストの言葉が聞こえてきます。そして、そのお年寄りに「まだ間に合うよ」と逆に励まされ、最後は教会にたどり着く、そのような劇でした。
 劇は一年に数回上演します。メンバーは日本キリスト教団蒲田教会(東京都大田区蒲田1-22-14/03-3732-1796)に集まっています。毎週土曜日の夜7時から礼拝、8時からコーヒータイムがあります。上演が近づくと、コーヒータイムが練習時間になります。日曜日の午後も練習にあてます。どこの国の方でもお越しください。クリスチャンでなくても大歓迎です。ペルー人、日本人あわせて10人くらいの小さなグループですが、すばらしい仲間ばかりです。

 

はやし・いわお/1960年生まれ。1995年、ペルーに6ヶ月滞在。ペルーの神父G. グティエレスの著作を翻訳出版。

 


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