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日本における外国人就労者の子弟の教育問題
「教育は子どもの基本的人権」
井口正富(NPO法人「一新塾」外国人問題研究担当

 現在、日本には約200万人の外国人が居住しています。そして、その数は将来さらに増える見通しです。一方、これら居住外国人、とくにいわゆる単純労働の分野で働く人や、その家族は、日常生活において様々な問題を抱えています。そして、それらは入国管理、労働、教育、医療その他多岐の分野にわたっています。そんななか、私は今すぐ真剣に取組まなければならないのは、外国人の子どもたちの教育だと考えています。では、外国人の子どもたちは教育面でどのような問題を抱え、その解決に向けて私たちはいかなる取組みをしなければならないのでしょうか。3つの視点に立って私の意見を述べたいと思います。

 第一に強調したいことは、子ども、とくに6歳から14歳(日本では小中学校)の子どもは、いずれの国籍を持っていても、どのような境遇にあっても、教育を受けるべきだということです。世界的には子どもの人権という観点からも、その重要性が認識されています。日本のように高度に経済発展した高学歴社会で生きていく可能性のある子どもたちにとっては、なおさらです。しかし、現実的には日本に住む外国人の子どもたちのなかには、様々な理由から不就学の状況にあるケースが多いと言われています。このような事態は早急に改善されるべきです。

 現在、外国人の子どもの教育について、日本政府の考え方は、日本の学校で学びたいとの申し出があれば断らないが、それを強制出来ないというものです。したがって、各地方の教育委員会や学校は「待ち」の姿勢で、積極的には外国人子弟の受入を働きかけません。その結果、外国人側が子どもの就学について十分な情報を持ち、熱意をもって教育機関に接しなければ、子どもは日本の学校に就学する機会を失いかねません。私は、日本政府の立場をある程度理解しますが、同時に教育機関は、外国人の親がわが子の教育について最適な判断が出来るよう、必要な情報の提供と相談の受付をきちんと行うべきだと考えます。

 一方、外国人の親の側はどうでしょう。わが子の教育について、人任せ、国任せにしていないでしょうか? 子どもに教育を受けさせることは、親の義務であるということを十分認識しているでしょうか? とくに、わが子が将来日本に定住する可能性があるなら、日本語をきちんと理解させる教育を受けさせる必要があることを認識すべきです。非正規滞在だから表に出られない、仕事が忙しい、経済的余裕がない等子どもの教育実現に様々な事情、困難を抱える人も多いと思いますが、他の何をさて置いても子どもの教育を最優先に考えて欲しいものです。

 第二に、子どもが教育を受けるとして、どのような教育が適切か真剣に検討することが重要です。子どもの母語と日本語の能力、定住/永住か短期滞在かといった将来の見通し等を勘案の上、個別に判断する必要があります。例えば、小中学校の段階では、日本の学校に通うべきか、それともエスニックスクール(ブラジル系、ペルー系など)に通うべきかが重要な選択事項になります。

 私は、これまでに外国の子どもが多数学ぶ日本の学校や、外国の子どもたちが通う外国人学校を訪ねました。その際、いつも2つの点に関心を持って生徒と接しました。ひとつは、子どもたちの日本語能力がどの程度かという点、もう一つは子どもたちが将来にわたって日本に定住する予定かという点でした。その結果、日本語の能力については滞在年数、年齢その他によって個人差がとても大きいということ、そして定住か否かについては「分からない。親次第」という状況の子どもがほとんどだということが判りました。子どもの頃から2カ国言語に接していれば、放っておいてもバイリンガルの能力が獲得できると考えている親がいるかも知れません。しかし、私は読み書きも含めた語学修得という意味では、母語、日本語のいずれかを確立させなければ、バイリンガルの能力の獲得は困難ではないかと思います。従って、子どもの個別事情を踏まえてきちんと教育をしないと、母語も日本語も中途半端ないわゆるセミリンガルになってしまう危険性があります。さらに、子どもが日本の学校、外国人学校のいずれで学ぶのかを決めるに当たって、日本に定住するのかいずれ母国に帰るのかという将来設計を持つことが重要です。仕事の見通しがつくまで定住か短期滞在か決められないという親の立場も理解できます。しかし、子どもの将来を考えるならば、進学先を日本の学校にするか、エスニックスクールにするか子どものために早く決断して欲しいと思います。

 最後に、外国人子弟の教育に関する日本人社会と外国人社会の協働について触れたいと思います。最近、日本人の中にこの問題に関心を持ち、親身になって外国人の子どもたちを支援する人たちが増えてきています。日本中のあちこちで、教育関係者のみならず、民間非営利組織はじめボランティア組織のメンバーが、何が外国人の子どもにとってベストな教育方法か真剣に議論しています。でも、この人たちも時に空しさを感じるようです。なぜなら、外国人側からの反応が感じられない場合があるからです。自分たちが行っている支援が、本当に彼らの役に立っているのだろうかと不安に感ずることがあると聞きます。そのような支援者の不安を取り除き、さらなる協力を得るために、外国人の個人、社会がもっとこの問題を真剣に考え、どう取組みたいのかについて意見を述べなければならないと思います。そして、外国人子弟の教育について、日本人、外国人双方がコミュニケーションを深めていけば、結果として国民レベルの議論に広がり、政府、地方自治体の政策決定にも影響力を与えるようになると思います。外国人側からも、大いに情報を発信してほしいものです。

 外国人子弟の教育について、日本政府は最善の策を講じるべきです。そして、多くの日本人がそれを訴え、サポートするようになることが理想的です。しかし、外国人も努力をしなければならないのです。なぜならこれは、「自分の子ども」の問題です。自らが、自らのコミュニティと共に考え、改善に向けた取り組みをして欲しいと思います。それが、まずは第一歩です。

 

いぐち・まさとみ/1951年生まれ。1975年 京都大学法学部卒業後、三菱商事(株)入社。主として食料関連の貿易、事業投資、事業管理を担当。南米に留学、駐在経験あり。2001年に退職。

 

   


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